君は、胡茄の音の、このうえもなく悲しい響きを聞いて知っているだろう。それは、赤ひげで青い目をした北方の異人が吹くのだ。
その音色の悲しさは、一曲を吹き終わらないうちに、遠く西域の楼蘭付近の守衛に当っている兵士達を、深い愁いに沈ませてしまうのである。
まして秋風のみにしむ八月 (旧暦) の頃、君は蕭関のあたりを通るだろうが、その頃そこはきた風が吹きまくって、ことさらに寒い天山山脈の草も吹きまくらんばかりだろう。
そのうえ、遥か彼方の崑崙山の南に月が落ちかかろうとする頃、えびすたちはその月に向かって胡茄を吹くことであろうが、それはまた一層に悲しい音である。
私は今、あの物悲しい胡茄の音色を思い浮かべながら彼の地へ旅立つ君を見送ろうとし、また、ここ長安の山々から、遥か隴山あたりに見える雲を眺めつつ、君の任務の重さと、これからのご苦労をしのぶ次第である。
今此処を発って、ひとたび彼の地に着けば、そこは辺境の城であり、今までのように語らい合う友もなく、夜毎に旅愁の夢を見ることが多いだろう。またそんな時に、あのえびすが月に向かって吹く胡茄の音には、とても堪えられない気持ちになることだろう。
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