秋の山に清風わたり月の美しき夜、どこの家からであろうか巧みに吹く笛の音が流れて、聞く人の腸を断たんばかりに悲しく聞こえてくる。
風にただよう陰陽の曲調はともに和して一層淋しげである。月は皎々と輝いて幾処もの関所のある山を照らし出している。
コンナ夜中に、胡の騎兵が、月を仰ぎながら、この悲しい笛の音を聞いたならば、きっと、郷愁の念に堪えられなくなって、北に向かって逃走してしまうことであろう。
また、後漢の馬援将軍が南方の武陵に蛮族を平定した際に、武陵深の歌を作って笛の音に和して歌ったという故事なども思い出される。
故郷の襄陽では、今はもう柳の葉がすっかり落ちてしまった頃なのに、今聞こえてくる笛の音は愁の深い 「折楊柳」 の曲で、それを聞いているうちに、自分はかえって、故郷の柳の葉がみな茂っているように思われてくるのである。
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