ぐう せい
木戸 孝允
天保四 (1833) 〜 明治十 (1877)

一穂寒燈照眼明

沈思黙坐無限情

囘頭知己人已遠

丈夫畢竟豈計名

世難多年萬骨枯

廟堂風色幾變更

年如流水去不返

人似草木爭春栄

邦家前路不容易

三千餘萬奈蒼生

山堂夜半夢難結

千嶽萬峯風雨聲
一穂いつすい寒燈かんとう まなこ らしてあきら かなり

ちん もく かぎ きのじょう

こうべめぐら らせば ひと すでとお

じょう ひつ きょう あに はか らんや

世難せいなん ねん 万骨ばんこつ

びょう どうふう しょく いく 変更へんこう

とし流水りゅうすいごと ってかえ らず

ひと草木そうもくしゅん えいあらそ

ほう ぜん よう ならず

三千さんぜん まん蒼生そうせいいかん せん

山堂さんどう はん ゆめ むすがた

千岳せんがく 万峯ばんぽう ふう こえ

誰もいない部屋を、寒々とさびしく照らす一つの灯火が、眼を射るように明るい。
じっと坐って一人物思いにふけると、色々なことが次から次へと浮んでくる。
振り返って見ると、共に国事に奔走した知己は、その多くが已に遠い過去の人となってしまった。
丈夫の目的は名利ではない、彼らは皆、国を憂え、國のために死したのである。多年にわたって時世の困難にあたり、多くの犠牲者を出した。
けれどもその後、朝廷の様子は幾たびか変わり、歳月はそれを意としないかのように、水の流れにも似て去って返らない。
その間にも人々は皆、春に争う草木のように、ただ我が身の栄達のみを競っている。
国家の前途はまだまだ容易ではない。いったい三千余万の将来を如何にしたらよいのか。
これを思い、彼を考えれば、心配でこの山荘の夜半の夢もろくろく結ぶことすら出来ない。
折からまわりの山々に吹きすさぶ風雨の音がはげしく、国家の前途を象徴するかのごとくである。