誰もいない部屋を、寒々とさびしく照らす一つの灯火が、眼を射るように明るい。
じっと坐って一人物思いにふけると、色々なことが次から次へと浮んでくる。
振り返って見ると、共に国事に奔走した知己は、その多くが已に遠い過去の人となってしまった。
丈夫の目的は名利ではない、彼らは皆、国を憂え、國のために死したのである。多年にわたって時世の困難にあたり、多くの犠牲者を出した。
けれどもその後、朝廷の様子は幾たびか変わり、歳月はそれを意としないかのように、水の流れにも似て去って返らない。
その間にも人々は皆、春に争う草木のように、ただ我が身の栄達のみを競っている。
国家の前途はまだまだ容易ではない。いったい三千余万の将来を如何にしたらよいのか。
これを思い、彼を考えれば、心配でこの山荘の夜半の夢もろくろく結ぶことすら出来ない。
折からまわりの山々に吹きすさぶ風雨の音がはげしく、国家の前途を象徴するかのごとくである。
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