俯しては郷国を思い、仰いでは主君の御身を考える。 こうして夜となく昼となく憂いは増し、思いは、この江戸に幽閉の主君斉昭公の身上と水戸の同志たちの境遇とに別れ飛んで、心は傷むばかりである。 ただ喜びとするものは多忙だった頃ととは違って、私もまた幽閉中なので、閑にまかせて書籍に読み耽ることができることだ。 錦衣を着け、豪華な食事を取ることを尊しとする者もいるがそれらは私から見れば、浮雲のごとくはかないものだ