げつ きん えん がい
柴野 栗山
1736〜1807


じょう えん 西せい ふう けい こうおく

しょう めい もん がい つき しもごと

なん びとこん せい りょう 殿でん

いつ きょくげい しょう ぎょ しょうほう
上苑西風送桂香

承明門外月如霜

何人今夜清涼殿

一曲霓裳奉御觴

(通 釈)
御所の外垣にそって歩いていると、御苑を吹き渡る秋風は木犀の香りをただよわせている。
承明門の外は月の光が冴えわたり、まるで、霜がおりたように白く光っている。
折から清らかな笛の音が聞こえてきた。今夜、清涼殿で一曲の霓裳羽衣の曲を奏して、御杯を奉じているのは誰であろうか。

○上苑==上林苑の略。天子の庭園の名。ここは御所の庭の意。
○西風==秋の風。西は季節では秋。
○桂香==木犀の香り。
○承明門==内裏の一番内側の囲い、すなわち 「内の重」 についている門の一つで、南面の中央に位置し、内側はし紫宸殿、外は建礼門となる。
○清涼殿==紫宸殿の西に位置し、天皇が日常生活をし、また四方拝・叙位・除目などの儀式をした宮殿であるが、中世以降は儀式専用となった。もとは漢代の宮殿の名前である。
○霓裳==霓裳羽衣の曲の略。 「霓裳羽衣」 とは、にじのもすそと羽毛の上衣の意味で、仙人の着物である。
○御觴==天子の御さかずき。


(解 説)
この詩は、栗山が京都で高橋宗直に従って国学を学んでいた三十歳ごろの八月十六日、皆川淇園と連れ立って、御所の外を散歩して作った即興の詩である。
(鑑 賞)
この詩は同行した皆川淇園 ( ミナガワ キエン) が 「天来」 と評したように、重ねて技巧を施したというような不自然さはない。 全体に上品で清らかなムードが漂う。
場所は御所、ときは秋の月の光が皎々と照らす夜、木犀の香りの中に笛の音が流れてくる。そして、その曲は月宮殿の音楽である霓裳羽衣の曲である。まさに、天上世界のような雰囲気が漂う。