本能寺の溝の深さは幾尺だろうかと、彼は部下にたずねた。
わが大事を成し遂げるのは今宵だと思うと気もひき しまる思いである。
けれども彼はその思いのあまり、手にしたちまきを皮ごと口にする状態だった。
おりしも五月 雨の時節で四方の軒には梅雨がふりそそぎ、空は墨を流したように暗く、彼の前途の悲運を示すかのごよくだっ た。
兵を整えて出陣した光秀は老阪まで来た。
これより西に向かえば備中へ行く道である。
しかし光秀は鞭をあ げて東を指し、京都に向かえと号令した。 刻はまだ未明である。
この時光秀は「敵は本能寺にあり」と絶叫したが 実は本当の敵は備中の秀吉である。
だからそれらに対する備えを充分にすべきだったのである。
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