この人をえ抱きたまふまじければ、うはむしろにおしくくみて、惟光乗せたてまつる。いとささやかにて、うとましげもなく、らうたげなり。
したたかいしもえせなば、髪はこぼれ出でたるも、目くれまどひて、あさましう悲しとおぼせば、なり果てむさまを見むとおぼせど、
「はや、御馬にて二条の院へおはしまさむ。人騒がしくなりはべらぬほどに」 とて、右近を添え乗すれば、徒歩
(カチ) より君に馬はたてまつりて、くくり引き上げなどして、かつはいとあやしく、おぼえぬ送りなれど、御けしきのいみじきを見たてまつれば、身を捨てて行くに、君はものもおぼえたまはず、われかのさまにておはし着きたり。
人々、 「いづこよりおはしますにか。なやましげに見えさせたまふ」 など言へど、御帳 (ミチョウ)
のうちに入りたまひて、胸おさへて思ふに、いといみじければ、などて乗り添ひ行
(イ) かざりつらむ、生きかへりたらむとき、いかなるここちせむ、見捨ててゆきあかれにけりと、つらくや思はむ、と心まどひのなかにも思ほすに、御胸せきあぐるここちしたまふ。御頭もいたく、身も熱きここちして、いと苦しくまどはれたまへば、かくはかなくて、われもいたづらになりぬるなめりとおぼす。
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