かろうして、鳥の声はるかに聞こゆるに、命をかけて、何の契りにかかる目を見るらむ、わが心ながら、かかる筋におほけなくあるまじき心の報いに、かく来
(キ) し方行 (ユ) く先の例
(タメシ) となるぬべきことはあるなめり、忍ぶとも、世にあること隠れなくて、内裏にきこしめさむをはじめて、人の思ひ言はむこと、よからぬ童べの口ずさびになるべきなめり、ありありて、をこがましき名をとるべきかなと、おぼしめぐらす。
からうして、惟光の朝臣参れり。夜中暁といはず、御心に従へるものの、今宵もさぶらはで、召しにさへおこたりつるを、憎しとおぼすものから、召し入れて、のたまひいでむことのあへなきに、ふとももの言はれたまはず。右近、大夫
(タイフ) のけはひ聞くに、はじめよりのこと、うち思ひ出でられて泣くを、君も堪へたまはで、われ一人さかしがり抱き持ちたまへけるに、この人に息をのべたまひてぞ、悲しきこともおぼされける。とばかり、いといたく、えもとどめず泣きたまふ。
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