この大臣 (オトド) 御おぼえいとやむごとなきに、母宮、内裏
(ウチ) のひとつ后腹 (キサキバラ)
になむおはしければ、いづかたにつけてもいとはなやかなるに、この君さへかくおはし添ひぬれば、春宮
(トウグウ) の御祖父
(オホジ) にて、つひに世の中を知りたまふべき、右の大臣の御勢いは、ものにもあらず圧
(オ) されたまへり。
御子 (オンコ) どもあまた、腹腹 (ハラバラ)
ものしたまふ。
宮の御腹は、蔵人 (クラウド) の少将にて、いと若をおかしきを、右の大臣の、御中はいとよからねど、え見過ぐしたまはで、かしづきたまふ四の宮にあはせたまへり。
劣らずもてかしづきたるは、あらまほしき御あはひどもになむ。
源氏の君は、上の常に召しまつはせば、心やすく里住みもえしたまはず。
心のうちには、ただ藤壺のありさまを、たぐひなしと思ひきこえて、さやうならむ人をこそ見め、似る人なるもおはしけるかな、大殿の君、いとおかしげにかかしづかれたる人とは見ゆれど、心ににもつかずおぼえたまひて、幼きほどの心ひとつにかかりて、いと苦しきまでぞおはしける。
大人になりたまひてのちは、あやしやう御簾のうちにも入れたまはず。
御遊びのをりをり、琴笛の音に聞こえかよひ、ほのかなる御声をなぐさめにて、内裏住みのみこのましうおぼえたまふ。
五六日さぶらひたまひて、大殿 (オホイトノ) に二三日など絶え絶えにまかでたまへど、ただ今は幼き御ほどに、罪なくおぼしなして、いとなみかしづききこえたまふ。
|