〜 〜 『 源 氏 物 語 』 〜 〜
 
2008/02/26 (火) 桐 壺 (二十一)

御かたがたの人々、世の中におしなべたらぬを、選りととのへすぐりてさぶらはせたまふ。 御心につくべき御遊びをし、おほなおほなおぼしいたつく。
内裏にはもとの淑景舎 (シゲイサ) を御曹司にて、母御息所の御かたの人々、まかで散らずさぶらはせたまふ。
里の殿は、修理職 (スリシキ) 内匠寮 (タクミヅカサ) に宣旨くだりて、二なう改め造らせたまふ。
もとの木立、山のたたずまひ、おもしろき所なりけるを、池の心広くしなして、めでたく造りののしる。
かかる所に、思ふやうならむ人をすゑて住まばやとのみ、嘆かしうおぼしわたる。
光君といふ名は、高麗人 (コマウド) のめできこえて、つけたてまつりけるぞと、言ひ伝へたるとなむ。

(口語訳・瀬戸内 寂聴)

婿君の方にも姫君の方にも、選りすぐった器量や芸の並々でない女房ばかりを仕えさせていらっしゃいます。源氏の君のお心を惹くような面白い遊びの催しごとをしたりして、せいぜいご機嫌をとり結ぶことに心を砕いていらっしゃるのでした。
源氏の君は宮中では、もとの桐壺の更衣のお部屋をそのままいただいて、更衣にお仕えしていた女房たちを、今も散り散りにならぬよう、引き続いてお仕えさせています。
昔の更衣の二条の里邸は、修理職 (スリシキ) や内匠寮 (タクミヅカサ) に帝から宣旨が下って、またとないくらいに立派に改修の工事が進んでいます。
もともと庭の植え込みや、築山 (ツキヤマ) の配置などは結構な風情のある所でしたが、さらに池を広く作り直したり、邸を立派に造築したりして工事が賑々しいことです。
源氏の君はその二条のお邸をご覧になるにつけても、
「こんな所へ、理想通りの心に適うお方をお迎えして、ご一緒に住めたらどんなに幸せだろう」
とばかり、切なく思いつづけていられるのでした。
「光る君」 という名は、あの高麗 (コマ) の観相家が、この君をほめたたえてお付けしたのだと、言い伝えられていますとか。

新調日本古典集成 『源氏物語 (一) 』 校注者・石田 穣二 清水 好子 発行所・ 新潮社
『源氏物語 巻一』 著者 ・瀬戸内 寂聴 発行所・ 講談社 ヨ リ