今は内裏 (ウチ) にのみさぶらひたまふ。七つになりたまへば、読書
(フミ) 始めなどせさせたまひて、世に知らずさとうかしこくおはすれば、あまり恐ろしきまで御覧ず。
「今は誰 (タレ) も誰もえ憎みたまはじ。母君なくてだにらうたうしたまへ」
とて、弘徽殿などにも渡らせたまふ御共には、やがて御簾 (ミス)
の内に入れたてまつりたまふ。
いみじき武士 (モノノフ) 、仇敵 (アダカタキ)
なりとも、見てはうち笑 (エ) まれぬべきさまのしたまへれば、えさし放
(ハナ) ちたまはず。
女御子 (オンナミコ) たち二所 (フタトコロ)
、この御腹におはしませど、なずらひたまふべきだにぞなかりける。
御かたがたも隠れたまはず。今よりなまめかしうはずかしげにおはすてば、いとをかしううち解
(ト) けぬ遊び種 (グサ) に、誰も誰も思ひきこへたまへり。
わざとの御学問はさるものにて、琴笛の音 (ネ) にも雲居
(クモイ) を驚かし、すべていひ続けば、ことことしう、うたてぞなりぬべき人の御さまなりける。
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