「 『しばしは夢かとのみたどられしを、やうやう思ひ静まるにしも、さむべきかたなく堪へがたきは、いかにすべきわざにかとも、問ひあはすべき人だになきを、忍びては参りたまひなむや。若宮のいとおぼつかなく、露けきなかに過ぐしたまふも、心苦しうおぼさるるを、疾く参りたまへ』
など、はかばかしうものたまはせやらず、おぼしつつまぬにしもあらぬ御けしきの心苦しさに、うけたまはり果てぬやうにてなむ、かくかしこき仰せ言を光にてなむ」
とて、御文たてまつる。
「目に見えはべらぬに、かくかしこき仰せ言を光にてなむ」 とて、見たまふ。
「ほど経ばすこしうちまぎるることもやと、待ち過ぐす月日に添へて、いと忍びがたきはわりなきわざになむ。
いはけなき人をいかにと思ひやりつつ、もろともにはぐくまぬおぼつかなさを、今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへ」
など、こまやかに書かせたまへり。
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