容貌 (カタチ) きたなげなく、若やかなるほどの、おのがじしは塵
(チリ) もつかじと身をもてなし、文を書けど、おほどかに言選
(コトエ) りをし、墨つきほのかに、心ともなく思はせつつ、またさやかにも見てしがなと、すべなく待たせ、わづかなる声きくばかり言ひ寄れど、息の下にひき入れ、言少ななるが、いとよくもて隠すなりけり。
なよびかに女しと見れば、あまり情 (ナサケ) にひきこめられて、とりなせばあだめく。
これをはじめの難とすべし。
事がなかに、なのめなるまじき、人の後見のかたは、もののあはれ知り過ぐし、はななきついでの情
(ナサケ) あり、をかしき進めるかた、なくてもよかるべしと見えたるに、また、まめまめしき筋を立てて、耳はさみがちに、びさうなき家刀自の、ひとへにうちとけたる後見ばかりをして、朝夕の出で入りにつけても、公私の人のたたずまひ、よきあしきことの、目にも耳にもとまるありさまを、うとき人に、わざとうちまねばむやは、近く見む人の聞きわき思ひ知るべからむに、語りもあはせべやと、うちも笑まれ、涙もさしぐみ、もそは、あかなきおほやけ腹立たしく、心ひとつに思ひあまることなど多かるを、何にかは聞かせむと思へば、うちそむかれて、人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、あはれともうちひとりごたるるに、『何ごとぞ』
など、あはつかにさし仰ぎゐたらむは、いかがはくちおしからぬ。
ただひたぶるに子めきて、やはらかならむ人を、とかくひきつくろひいぇは、などか見ざらむ。
心もとなくとも、なほし所あるここちすべし。
げにさし向かひて見むほどは、さてもらうたきかたに罪ゆるし見るべきを、立ち離れて、さるべきことをも言ひやり、をりふしにしいでむわざの、あだことにも、まめごとにも、わが心と思ひ得ることなく、深きいたりなからむは、いとくちをしく、たのもしげなき咎や、なほ苦しからむ。
常はすこしそばそばしく、心づなき人の、をりふしにつけていではえするやうもありかし」
など、隅 (クマ) なきもの言ひも、定めかねて、いたくうち嘆く。
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