「もとの品、時世 (トキヨ) のおぼえうちあひ、やむごとなきあたりの、うちうちのもてなしけはひ後
(オク) れたらむは、さらにもいはず、何をしてかく生
(オ) ひいでけむと、いうかひなくおぼゆべし。
うちあひてすぐれたらむもことわり、これこそはさるべきこととおぼえて、めづらかなることと心もおどろくまじ。
なにがしが及ぶべきほどならねば、上 (カミ) が上
(カミ) はうちおきはべりぬ。さて世にありと人に知られず、さびしくあばれたらむ葎
(ムグラ) の門 (カド) に、思ひのはかに、らうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなくめづらしくおぼえめ。
いかではた、かかりけむと、思ふより違へることなむ、あやしくも心とまるわざなる。
父の年老い、ものむつかしげにふとりすぎ、兄の顔憎げに、思ひやりことなることなく閨のうちに、いといたく思ひあがり、はかなくしいでたることわざも、ゆゑなからず見えたらむ、かたかどにても、いかが思ひのほかにをかしからざらむ。
すぐれて疵 (キズ) なきかたの選びにこそ及ばざらめ、さるかたにて捨てがたきものをば」
とて、式部を見やれば、わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや、と心得
(ウ) らむ、ものも言はず。
いでや、上の品と思ふにだにかたげなる世を、と君はおぼしべし。白き御衣
(ゾ) どものかよよかなるに、直衣 (ナオシ)
ばかりを、しどげなく着なしたまひて、紐 (ヒモ)
などもうち捨てて、添ひ臥 (フ) したまへる御火影
(ホカゲ) 、いとめでたく、女にて見たてまつらまほし。
この御ためには、上が上を選 (エ) りいでても、なほ飽くまじく見えたまふ。
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