「なりのぼれども、もとよりさるべき筋ならぬは、世人 (ヨヒト)
の思へることも、さはいへどなほことなり。
また、もとはやむごとなき筋なれど、世に経るたつき少なく、時世 (トキヨ)
にうつろひて、おぼへ衰へぬれば、心は心としてこと足らず、わびたることどもいでくるわざなめれば、とりどりにことわるて、中
(ナカ) の品にぞ置くべき。
受領と言ひて、人の国のことにかかづらひいとなみて、品定まりたるなかにも、またきざみきざみありて、中の品のけしうはあらぬ、選り出でつべきころほひなり。
なまなまの上達部よりも、非参議 (ヒサンギ) の四位
(シイ) どもの、世のおぼえくちおしからず、もとの根ざしいやしからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、いとかはらかなりや。
家のうちに足らぬことなどはた、なかめるままに、はぶかず、まばゆきまでもてかしづける女 (ムスメ)
などの、おとしめがたく生ひいづるもあまたあるべし。
宮仕へに出で立ちて、思ひかけぬさいはひ、とりいづる例ども多かりし」
など言へば、
「すべて、にぎははしきによるべきなり」
とて、笑ひたまふを、
「異人 (コトビト) の言はむやうに、心得ずおほせらる」
と、中将憎む。
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