つれづれと降り暮らして、しめやかなる宵 (ヨイ)
の雨に、殿上 (テンジョウ) にもおさおさ人少
(ヒトスク) なに、御宿直所 (トノイドコロ)
も例よりはのどかなるここちするに、大殿油 (オオトナブラ) 近くて、書どもなど見たまふ。
近き御厨子 (ミズシ) なる、いろいろの紙なる文どもを引き出でて、中将わりなくゆかしがれば、
「さりぬべき、すこしは見せむ。かたはなるべきもこそ」
と、許したまはねば、
「そのうちとけて、かたはらいたしとおぼされむこそゆかしけれ。おしなべたるおほかたのは、数ならねど、程々につけて、書きかはしつつも見はべりなむ。おのがじし、うらめしきをりをり、待ち顔ならむ夕暮れなどのこそ、見所
(ミドコロ) はあらめ」
と怨 (エン) ずれば、やむごとなく、切に隠したまふべきなどは、かようにおほざうなる御厨子などに、うち置き散らしたまふべくもあらず、深くとりおきたまふべかめれば、二の町の心やすきなるべし、片端づつ見るに、
「よく、さまざまなるものどもこそはべりけれ」
とて、心あてに、それかかれかなど問ふなかに、言ひあつるもあり、もて離れたることをも思ひ寄せて疑ふも、をかしとおぼせど、言少なにて、とかくまぎらはしつつ、とり隠したまひつ。
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