英世四十二歳、研究への情熱はいよいよ高まってきました。
彼は、その頃世界の恐怖といわれていた黄熱病に取り組んでいたのです。南米エクアドルに行き、殆ど不眠不休の研究を続け、僅か三ヶ月でその病原体をゆきとめ、治療用血清を作り上げました。その血清ワクチンは現地でかなり有効に働いたのです。
人類の救世主、ドクター・ノグチの名声はさらに高まっていきました。しかし英世の悲劇は、この時既に始まっていたのです。
英世のワクチンの有効性に対する疑問が発生し、彼はブラジル、ペルー、メキシコへと出張しました。英世はその疑問をうち消しつつ、心に何故か釈然としないものを持っていました。
昭和二年、英世五十一歳、西アフリカのアクラへ、自分の黄熱病に対する今までの研究結果が間違っていないかを確かめる為乗り込んでいったのです。そして、遂に彼は黄熱病に感染し、「私には、解らない。」 という言葉を最後に、亡くなりました。英世の黄熱病の学説は間違っていました。
しかし、それは、無理からぬ事だったのです。電子顕微鏡でしか見ることの出来ない微細なウイルスという病原体を当時の顕微鏡で見つけ出せるはずがありません。それは、学問の発展途上における必要やむおえざる誤りであったのです。

 野口英世 その七
         
松口 月城

黄色熱病 遂に見えず

君之に感染して犠牲と為る

悲雨 惨風 亞倉港

英雄 骨を埋む 蛮土の浜

  彼は人類の為に生まれ

  人類の為に死せり

  彼は人類の為に生まれ

  人類の為に死せり

哀惜之声は 世界に満つ

眞に是 空前絶後の人

眞に是 空前絶後の人

英世が、単身アメリカに来て最初に与えられた仕事は、人が嫌がる恐ろしい毒蛇コブラから毒を取り出し、その血清の研究する事でした。将に命がけの仕事でした。ナポレオンのように、僅か数時間の睡眠時間で、不屈の精神力であくことなく細菌を追い続けた野口英世、殻の人類に残した業績は、母シカの陰の力と共に、いささかも損なわれること泣く今なお燦然と輝いています。
お前の左手を不具にしたのは私の責任だと、我が身を削って英世の為に働き続けた母の愛、母こそは神、仏より尊いのではないでしょうか。

 母 を 憶 う
   
  網谷 一才
情愛纏綿たり母性の真

一生の労苦其の身を捧ぐ

酬ゆ可し存命平常の裡

深厚の慈恩仏神に勝る

 憶 母
    
網谷 一才
情愛纏綿母性真

一生労苦捧其身

可酬存命平常裡

深厚慈恩勝仏神