たとへば君 ガサッと落葉 すくふやうに  私をさらって 行つてはくれぬか
【作 者】かわ ゆう
【歌 意】
例えばあなた。ガサッと両手で落ち葉をすくい上げるように私をさらっていってほしいの。
【語 釈】
○たとへば君==<君> は、女性から見た恋人を指す。あなたの意。
この初句の始まり方は唐突だが、少女の恋人への積極的な誘惑の表現である。
○ガサッと落葉すくふやうに==<ガサッと> は擬音語 (オノマトベ) 。
古谷智子は、
「両手で落ち葉をすくい上げるように、自分をさらっていって欲しいという激しい一体化への希求を、オノマトベの効果を最大限に発揮させて歌っている。」 ( 『河野裕子の歌』 平成8) と評した。
【鑑 賞】

処女歌集 『森のように獣のように』 (昭47) 所収。
河野裕子は、この歌集で、大胆に若い女性の不敵さ、一途さを歌い上げたが、この歌もその一つとして有名。
俵万智は <相手への想いがぎりぎりのところまで高まっている> とし、<その危うい均衡を自ら打ち破ろうという気迫> があると解釈した。
<ガサッと落葉 すくふやうに> には、<そのような激しい答えを求める思いが感じられる> ( 「河野裕子の二首」 『言葉の虫めがね』 平成11) と説いた。
<たとへば君> という初句が、 <ガサッと落葉すくふやうに> という直喩表現と呼応し、大胆な <をさらって行つてはくれぬか> で締める。無造作に見えながら実は繊細な技法を駆使した歌とされている。

【補 説】
恋人との激しい一体化を望む少女の一途な思いが読まれ、初五の <たとへば君> に <男の積極性を促す少女の率直さ> (古谷智子前掲書) が読まれる解釈が一般的だが、 <たとえば> は <ガサッと> 以下にかかるより <君> に掛かると取れば、誰でもいいけど <たとへば君> でもいいからというニュアンスになり、また <さらって行つて> くれることを望む在り方には、何かを望むよりは、どこか今のここではないどこかに行きたいという逃避願望のようなものを読む、定説以外の解釈も可能。
【作者略歴】

昭和二十一 (1946) 年、熊本県に生まれる。三十九年、 『コスモス』 に入会。四十一年、京都女子大学文学部国文学科入学。四十二年、京都の大学生達による同人誌 「幻想派」 に参加。永田和宏と知り合う。
四十四年、 『桜花の記憶』 により、第十五回角川短歌賞を受賞。
四十七年五月、第一歌集 『森のように獣のように』 刊行。永田和宏と結婚。
以降、現代の <女歌> をリードし続ける存在として活躍。
第二十一回現代歌人協会賞、第五回現代女流短歌賞、京都市芸術新人賞、第四回ミューズ女流文学賞、第三十四回コスモス賞を受賞。
歌集に 『ひるがほ』 『桜森』 『燦』 『あかねさす』 『はやりを』 『河野裕子歌集』 『紅』 『歳月』 『体力』 『家』 『歩く』 『日付のある歌』 などふぁある。

(近代文学研究者 紫安 晶)