【作 者】若山
牧水
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【歌 意】 |
いくつもの山や川を越えて遠くまで行ったなら、さびしさがなくなる国がきっとあるだろう。
そう信じて、今日も旅を続けていく。 |
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【語 釈】 |
○行かば==もし行ったなら。 「行く」 の未然形+接続助詞 「ば」 で仮定条件 (もし〜ならば) を表す。
○寂しさの終てなむ国ぞ==さびしさの終わりになる国がきっとあるだろう。
「なむ」 は強意の助動詞 「ぬ」 の未然形+推量の助動詞 「む」 の連体形で、きっと〜だろう、と訳す。
「ぞ」 は強意の係助詞で、下に結び 「あらむ」 が省略されている。
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【鑑 賞】 |
「中国を巡りて」 の十首のうちの一つである。
明治40年6月、牧水二十三才の時、東京から故郷宮崎に帰る途中、友人に勧められて岡山で下車し中国山中を一人で旅した時に作った。
「幾山河越えさり行かば」 という表現から、どんどん前へ進んで行く旅人の姿を想像させる。
また結句に 「今日も旅行く」 と結ぶことで、寂しさの終る国があろうがなかろうが、昨日も、そして明日も旅をしていくのだという決意も感じる。
さて、寂しさの果てる国とは何であろうか。牧水はこの歌について、 「自歌自釈」 の中で、 「人間の心には、真実に自分が生きていると感じている人間の心には、取り去る事の出来ない寂寥感が棲んでゐるのである。行けども行けども尽きない道のように、自分の生きている限りは続き続いてゐるその寂寥にうち向こうての心を詠んだものである」
と述べている。
誰しもが抱える寂寥感を詠んでいるからこそ、今に至るまで人々に愛される歌なのだろう。
ところで、牧水は、当時、上田敏訳 『海潮音』 (明治38年刊) 所収のカール・ブッセの 「山のあなた」
という詩を愛誦しており、この歌は 「山のあなたの空遠く/ 「幸」 住むと人のいふ。」 の影響を受けていると言われている。
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【補 説】 |
「新声」 明治40年8月号に発表され、第一歌集 『海の声』 および第三歌集 『別離』 に収録されている。
ちなみに、この歌の歌碑は、岡山県哲西町の二本松峠に建てられている。
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【作者紹介】 |
明治18年 (1885) 宮崎県生まれ、昭和3 (1928) 年没。
早稲田大学在学中に、尾上柴舟の門に入り、前田夕暮とともに 「車前草社」 に加わり、自然主義的な作歌を目指した。
明治43年 (1910) 第三詩集 『別離』 で勧進として認められる。同年雑誌 「創作」 を創刊した。
主な歌集に 『海の声』 『死か芸術か』 『山桜の歌』 がある。
さらに、旅を愛し自然に親しみ、多くの紀行文・随筆集を刊行している。
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(日本女子大学大学付属中学校講師
壬生 里巳) |