『昨日まで』 所収。
この歌集名は、青春は昨日までという意味がこめられている。
この歌は、まさにその典型というべきものであろう。ただ放蕩に耽っているだけのように見えるかもしれないが、そんなことはないのであるという、そのニュアンスをもう少し詳しく分析してみよう。
若い時は心に鬱屈を抱えていて、そのやるせなさを女色や酒の酔いによって晴らそうとしがちなものだ。また、女・酒そのものが持つ快楽には、簡単には脱却しがたい魔力がある。
この歌でも、一時はそんな陥穽にはまってしまったものの、そういう自己を客観的に見据え、悔悟しつつ、そこから何とか抜け出そうとする意思が仄見える。
たんなる負け惜しみというよりは、もう少し強い感情、たとえば大人として自立しようとする気概のようなものも感じ取っていいだろう。
しかし、一方で歓楽街へ行く自己も戯画化されていて、そのあたりにユーモラスな一面も潜んでいる。その点も、この歌が良く出来ている理由である。
また、 「紅燈のちまた」 というはじまりの印象的なことも忘れがたい。
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