夜明けが近づいて、谷も山もむらさきとみどりが一つになって、たいへん美しい。 細かに降る雨のように、香しい朝霧が、けわしく重なる山々をおおっている。 訪れ来たった私は、当時の吉野の朝廷の悲運を悼む涙を抑えることができなかったが、延元の帝の御陵 (後醍醐天皇のみささぎ) 近くの花も、その思いを同じくするかのように、静かに朝の霧に濡れていた。