零 丁 洋れいていよう
文 天詳
南宋 (1236〜1282)

辛苦遭逢起一經

干戈落落四周星

山河破砕風漂絮

身世浮沈雨打萍

皇恐灘頭説皇恐

零丁洋裏歎零丁

人生自古誰無死

留取丹心照汗青
しん 遭逢そうほう 一經いつけい よりおこ
かん 落々らくらく たり しゅう せい
さん さい してかぜ じょただよ わし
身世しんせい ちん してあめ ひょう
こう きょう 灘頭だんとう きょう
零丁洋れいていよう 零丁れいていなげ
人生じんせい いにしえ よりたれ からん
丹心たんしんりゅう しゅ して汗青かんせいてら さん
丹心たんしんりゅう しゅ して汗青かんせいてら さん

自分がこのように困難辛苦に堪えているのは、経書の精神からである。
戦乱は打ち続き、すでに四年も経過した 。
国家は破れ砕かれてまるで風に柳の花が漂うように、
また一身の浮き沈みのさだめのないありさまはまるで浮 き草を雨が打つような状況である。
皇恐灘のほとりではその名の如く自分も大いに恐れている話をし、零丁洋を 通ってはその名の如く自分のおちぶれたことを歎くのでる。
けれど人生には昔から誰も死のない者はない。
死は 惜しむに足りないものだ。
ただ真心を世に留めて後々まで歴史を照らしたいと思うのである。