じま 高徳たかのり おう じゅしょ するのだい
斉藤 監物
文政五 (1822) 〜 万延元 (1860)

蹈破千山萬嶽煙

鸞輿今日到何邊

單蓑直入虎狼窟

一匕深探鮫鰐渕

報国丹心嗟獨力

囘天事業奈空拳

數行紅涙兩行字

付與櫻花奏九天
踏破ふみやぶ千山万嶽せんざんばんがくけむり
らん 輿 今日こんにち いず れのへん にかいた
たん ただち ろういわや
いつ ふかさぐ鮫鰐こうがくふち
報国ほうこく丹心たんしん どく りょくなげ
回天かいてん ぎょう 空拳くうけんいかん せん
数行すうこう紅涙こうるい 両行りょうぎょう
おう してきゅう てんそう

重なり連る多くの山々を踏み分けて、後醍醐天皇の御跡を追い奉ったがとうとう御乗物に追いつけず、今日は 何れのところに在せられるのであろうか。
只一人蓑をつけ一匕を懐にして虎狼の渕にもたとえるべき賊兵どもの 巣窟に忍び入った。
国に報ゆるの赤心があっても一人での力ではどうにもならない。
今一度天皇の御代に回そ うとしても手に何も持たないのでは致し方ない。
せめて赤心を留めて大御心をお慰め申し上げようと桜樹を削っ て 「天莫空勾践時非無氾蠡」 と両行の字を書いたのであった。