帰　雁

帰（き）　雁（がん）
錢起
中唐 (722？～780？)

瀟湘何事等閒囘

水碧沙明兩岸苔

二十五絃彈夜月

不勝清怨卻飛來

瀟湘（しょうしょう）より何事（なにごと）ぞ等間（とうかん）に回（かえ）る
水（みず）碧（みどり）に沙（いさご）明（あきら）かなり両（りょう）岸（がん）の苔（こけ）
二（に）十（じゅう）五（ご）絃（げん）夜（や）月（げつ）に弾（だん）すれば
清怨（せいえん）に勝（た）えずして却（かえ）って飛（と）び来（きた）らん

雁よ、お前達はどうしてこの瀟湘の土地をいいかげんに見捨てて、北の国へ帰ってしまうのか。
川の水はみどりも濃く、岸べの砂は白く明るく、両岸は苔むして、美しいところなのに。
それはおそらく、月の夜空に、川の女神がかなでる二十五絃の琴のしらべが、あまりにも清く、あまりにも悲しげなのに堪えかねて、それで北へと飛び立って行くのだろう。