(通 釈)
一切の飾りを捨て、心のままに行う大愚の境地を志向するものの、この境地に到り難く、また及び難いのは承知の事であったが、少年の時、立てた望みすら成就しないうちに、五十年の歳月はそれこそ瞬く間に過ぎ去った。
宇宙の動体を探らんとして寂静の心境を求め、この胸中を詠ぜんとするのだが、その心境も詩句も得られず、いたずらに日々は過ぎ去るばかり、胸中はまことに虚しい。
坐したまま空を仰げば、果てしなく遠く高い碧空に白雲が悠々と行き来する姿が望まれ、颯颯と渡って行く風の音に、ひそやかに落葉の声が聞える。
この中に自然の心理があるのだと感じ、ふと気がつけば昼の群動が止んで、いっそう閑寂となった窓のかなたの明るみの中に東山の姿が浮び、やがて月も出て、上がるにつれて川が向こう岸から段々に光を増してくる。
吾心も幾分の平和を得て、近頃になくほがらかである。悟りとまではいかないまでも──。
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