はっ けい
徳川 景山
1800 〜 1860

せつ かつしょうせん けい
あめよる さらあそ青柳あおやぎほとり
山寺やまでら晩鐘ばんしょう 幽壑ゆうがくひび
おお 落雁らくがん 芳洲ほうしゅうわた
こう 爛漫らんまん たり岩船いわふねゆうべ
月色げっしょく 玲瓏れいろう たり広浦ひろうらあき
はる かにのぞ村松むらまつ 青嵐せいらんあと
みな はん 高楼こうろうえい
雪時嘗賞仙湖景

雨夜更遊青柳頭

山寺晩鐘響幽壑

太田落雁渡芳洲

花光爛漫岩船夕

月色玲瓏廣浦秋

遥望村松青嵐後

水門歸帆映高樓

(通 釈)
雪の降る時、千波湖の景勝を賛美した事もあるし、さらには雨の降る夜に青柳のあたりを遊歩し、格別な気分に浸った事もある。
山寺の晩鐘は静かな谷間に響き渡り、太田のあたりに舞い下りる雁は花咲きにおう中洲をわたる。いずれも美しい光景である。
岩船あたりの夕べは花の香に満ち、秋の広浦の月は美しく輝いている。また、緑松の林を吹き過ぎる風のあとを遠くに望むさまも、一服の涼を感じてすばらしく、帰り来る帆掛船は高殿に映えて美しい。みな、わが水戸のよき眺めである。

○嘗==かって、以前。昔。昔から今までの意もある。また 「常に」 の意に通ずる。
「雪が降った時はいつも・・・・・」 の意。
○賞==めでる。賞玩・賞美 などの意。
○更==また同時に。その上、重ねて、の意。
○晩鐘==夕暮れの鐘の音、入相の鐘。暮鐘。
遥かに遠く、深く心にしみるものとして取り上げられている。
○幽壑==奥深い谷。 ○落雁==空より舞い降りる雁。
○芳洲==香ばしく花の咲いた中州。
○爛漫==花の咲き乱れるさま。
○玲瓏==麗しく輝くさま。また、玉などが透き通って明らかなさま。
○青嵐==青くかすむ靄。山がすみ。
○帰帆==港に帰る船。
○高楼==二階建て以上の高い建物。


(解 説)
徳川斉昭の水戸藩領内でも特に名高い絶景地八ヶ所を選び、それを 「水戸八景」 としてたたえたもの。
斉昭の自慢の景勝地でもあっただけに、作者の誇らしい心情がにじみ出ている。
詠い込まれている八景は、@仙湖 (千波湖) A青柳 B山寺 C太田 D岩船 E広浦 F村松 G水門 の八つ。この八景の山水の美が素朴に流麗に詠じられている。
(鑑 賞)
水戸藩第九代の藩主斉昭は会沢正志・藤田東湖らの碩学を参謀として藩政にとりくみ、軍備の充実、教育の振興に務める一方、藩内の治山治水にも力を入れた。
徳川御三家の一つとしても知られるこの水戸藩は、初代藩主頼房 (家康の第十一子) 以来、もともと山紫水明の地であり、領内には景勝の地がたくさんあった。斉昭は、この詩で、そうした自慢の景勝地を、自信を以って詠じている。
ただし、かって斉昭が自慢したこの水戸八景も、今は千波湖をはじめ、すっかり変わってしまっている所が多い。