(通 釈) 琵琶湖の水は遠く天に連なり、茫々と果てない万里の広さが目に映る。 ただ波が彼方から押し寄せ、重なり合って天をも揺るがすばかり。周囲の山々は一国を二分して東西に連なり、かすかに望まれる樹々包まれた一村はまさに絵の様に美しく、一方、瀬田の唐橋は色鮮やかな虹が中天にかかっているかと思うようである。 独り、舟に乗って琵琶湖に遊び、杜若などが香ばしく匂う芳洲にいると、風流文雅の楽しみは尽きることなく沸いてくる。だが、このわが心を解し得る人が他に居ることであろうか。
○虚無==茫々として一物も無きさま。虚空、大空。 ○目撃==実際にはっきり見る、その場で直接に見る。別に、ちょっと見る、ひと目見る、つまり瞥見の意がある。 ○畳波==折り重なって押し寄せる波。 ○迭==たがいに、かわるがわる。 ○群山==群がり聳える山。多くの山々。 ○孤村==ぽっつり離れた寂しい感じの村。人里離れた一村。 ○遠寿==遠方に望まれる樹々 ○彩紅==美しい色どりの虹。 ○芳洲==香草の花の咲く汀洲。 ○逸興==世俗を超越して秀れた風流の趣。風流文雅の楽しみ。