○蜑雨==漁師の里に降る雨。漁村の雨。壇の浦の海岸に降る雨をいう。
「蜑」 は中国の少数民族の名。船を家とし、漁業を営んだ。
○茫茫==果てしなく広がるさま。
○海上村==海のほとりの村。今の下関市壇之浦町にある壇之浦古戦場、今、赤間神社があり、平家の霊が祀ってある。
○水浜==壇之浦の水辺。 ○何処==どの場所に。
○英魂==壇之浦で戦死した英雄たちの魂。
○波底皇居==波の底にある皇居。
二位の局 (平清盛の妻時子) が幼少の安徳天皇を抱いて入水する時 「波の底にも、都の侍ふぞ」 と言った話は 『平家物語』
の 「先帝御入水」 の章に見える。
○誰信==老仏の伝説を誰が信じようかの意。
○人間==人の住む所。世間。
○老仏==ふつう老僧の尊称であるが、明の建文帝が市井に身を隠した時の仮の名。建文帝はおじの燕王に攻められ、都から逃れる事が出来ず焼き殺されたという。一説によると、僧に変装して逃れ、名を老仏と称して市井に身を隠したという。史実に反するが、安徳帝にも此れと似た伝説がある。
○鷁首==鷁の形を船首につけた船。美しい船。鷁首は水神の心を慰めるためにつけたとも、風浪に耐える鷁にあやかったものとも言われる。天子貴人の御座船の印とされた。
○悲楚沢==楚の沼沢の不幸を悲しむ。
周の昭王が楚に遊んだ時、船頭が王の悪政を憎み膠の船を造り、中流に至って膠が溶けて王は水死した。ここでは安徳天皇が壇之浦で水死した不幸に重ねて用いた。
○鵬程==鵬が飛ぶ里程。鵬は背の大きさ数千里、一飛びすれば九万里とい。
○無際==果てが無く。懐が宋の少帝が沈んだ獄蛯ノまで至ることをいう。
○接獄蛛=獄蛯フ古事にまでつながる。
“獄蛛h は獄蜴Rまたは克Rという山で、広東省新会県の南の海中にあって、奇石山と対いあっている。宋末 (1279)
に張世傑、陸秀夫らがこの山に篭り、元将張弘範に攻められ、帝の衛王は陸秀夫に背負われて入水した。安徳帝の古事と対比される。
○腥風==なまぐさい風。壇之浦で多くの人が死んだからいう。
○吹断==なまぐさい風が強く吹く。
○蓬窓夢==船中で結ぶ夢。 “蓬窓” はとまを懸けた船の窓。
○島樹==島に生えている木。壇之浦は島ではないが、海岸に生えている松の林などをいったものであろう。
○汀雲==水際の雲。
○鬼気昏==死霊の気がたちこめて昏い。壇之浦で恨みをもって死んだ平家の将兵の怨霊による。
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