(通 釈) かっては都の貴族たちが袖を翻して往来した朱雀門のあたりに、今は名もない野の草花が咲いている。 王、謝など大貴族の邸宅が軒を並べた烏衣巷に、夕陽が斜めに差し込んでいる。 その昔、王、謝の邸宅に巣を作っていた燕が、今は普通の庶民の軒先に、飛んで入ってゆく。
○烏衣巷==金陵 (六朝時代は建康といった) の町の名。もと、三国時代呉の烏衣営のあったところという。東晋以後、王氏、謝氏のような貴族の住居がここに構えられた。王謝の子弟がここで風雅の遊びをしたのを 「烏衣之遊」 といってもてはやした。 ○朱雀橋==朱雀門 (都の南門) の外、秦淮にかかっていた橋。烏衣巷の入り口になる。 ○王謝==南朝最大の貴族。 ○尋常==ふつうの。並の。 ○百姓==人民、庶民。