しゅん りゅう
北条 時頼
1227 〜 1263


しゅん りゅう きし よりもたか

さい そう こけ よりもみどり なり

しょう いん ひといた

かぜ たってもん おのずかひら
春流高似岸

細草碧於苔

小院無人到

風來門自開

(通 釈)
春の川の流れは、雪解けの水をたたえて豊かな流れとなり、岸を越すほどであり、岸辺には、若草が生えそろい、苔よりも緑濃く青々としている。
この春景につつまれた草堂は、人の訪れることもなく、ただ春風だけが吹いてきて、門の戸がひとりでに開くのだ。

○春流==春の川の水の流れ。春の川は雪どけの水をのんでいるので、豊かな流れとなる。
○細草==新芽を出したばかりの草。
○小院==小さな庵。草堂。


(解 説)
春の訪れを人里から離れた粗末な庵で感じて詠んだ詩である。
家を嫡子時宗に譲って最明寺で出家し、法名を道崇と称した後の作品とみられる。
(鑑 賞)
春流とは、雪解け水をいっぱいにたたえて流れる春の川である。その川辺は萌えいずる若草におおわれ、いかにも心地よい。
前半は春ののどかな情景を描く。この山中の小さな庵には誰も訪れる者はいないが、ただ春風だけが門を明けて入ってくる、と隠者の閑静な暮らしを詠っている。
素朴で何気ないような情景であるが、悠然とした奥深いものが胸にシックリ落ち着く心地である。南山の下に隠れた陶淵明を思わせるようだ。
(備 考)
北条時頼をモデルにしたといわれる物語に、 「鉢の木」 がある。作者不明であるが、次のような物語である。

ある雪の夜、上野国佐野の里にある佐野源左衛門尉常世の茅屋に、雪に迷った旅僧が訪ねて来る。常世は、飯をすすめ、暖を取る為秘蔵の鉢植えの梅・松・桜を薪として歓待する。
その中の話に、いまは零落の身になっているが、一朝鎌倉に事があったら一番に駆けつけて命を捨てて戦う覚悟だと物語る。
翌朝僧は去るが、後に鎌倉から召集の命が下り、常世が駆けつけると、かttの旅僧は、前執権北条時頼であったとわかる。
時頼は、常世の言葉に偽りのなかったことと、雪の夜の歓待に報いるため、本領安堵と鉢の木にちなむ恩賞を与えた。