どく りゅう
杜 牧
晩唐 (803)〜(852)


けむりふくいつ しゅやなぎ

はらかぜゆら ぐことひさ

じん るにしの びず

ちょう ぼう してせん しゅまわ
含煙一株柳

佛地揺風久

佳人不忍折

悵望囘繊手

(通 釈)
春がすみのかぶるように、ボーッとかすむ柳の枝。その柳の枝は地を払うようにやさしい春風に揺れ動いていて何とも言えない美しい風情である。
美人はその柳の枝を折ろうとして折るに忍びず、美しい細い手を戻して、悲しげに遠くを眺めやっている。

○煙==かすみ。もや。芽吹いたばかりの柳の枝を形容したもの。
○揺==うごく。揺れ動く。 ○佳人==美人
○悵望==悲しげに遠くを眺めやること。
○繊手==細くしなやかな手。美人の手のこと。


(解 説)
芽吹いたばかりの柳の傍らに立ち、思いにふける美人をうたった詩。
(鑑 賞)
独柳とは孤独な柳である。それは同時に、孤独な女性の象徴でもある。この女性は夫と別れている。柳は別離の象徴。古詩を踏まえているとすれば、彼女はもと倡家の女、今は浮気男の妻になっている。夫は家を出たまま帰って来ない。どこで浮気をしているやら。
春になって柳の芽がふくころ、ひとしお別れの悲しみはいや増す。
柳の姿におのれの姿を見ればこそ、その柳を折る手はためらい、むなしくため息をついて、遠く望み見るのである。返す手の細く白いさまが印象に訴えられる。艶に美しい、上品な詩である。