子 規ほととぎす
正岡 子規
1867 〜 1902


いつ せい げつもと

いて くに えず

はん むな しくまくらそばだ

きょう ばん くも
一聲孤月下

啼血不堪聞

半夜空欹枕

古郷萬里雲

(通 釈)
ホトトギスの啼き声が一声、もの悲しく懸かる一輪の月の下に響き渡る。
その痛切な啼き声は、聞くに堪えない。孤独な旅人は、夜半目を覚まして独り枕を引き寄せ、遥か離れた故郷に思いを致すのである。

○子規==ホトトギス
○孤月==ひとつの月。一輪の月
○啼血==血を吐いて啼くこと。またホトtギスの鋭い声からホトトギスの啼き声の痛切なことをいう。
○不堪==ホトトギスの痛切な啼き声を聞くに堪えられない。
○半夜==夜半。真夜中。
○欹==一端を上げ起こす。傾ける


(解 説)
作者が自らに子規というテーマを与えて初めて作った漢詩。
作者は生前二千首に及ぶ漢詩を詠んでいる。その中から自選して、自ら記録し直したものを綴じて残したのが 『漢詩稿』 である。この詩は、その 『漢詩稿』 冒頭の詩で、その題下に 「余作詩 以此為始」 (余詩を作る。此れを以って始めと為す) とある。時に明治十一年、作者十一歳であった。
(鑑 賞)
この詩は一種の題詠 (決められた題のもとに作るもの) である。十一歳の作者が遠く故郷を離れて作った詩ではない。
月明りのもとに啼くホトtギス、それを聞いて枕を濡らす旅人といえば典型的なパターンによったものであるが、そつがなく十一歳の少年の作としては立派な出来栄えである。
なお、後年肺結核を病んで 「子規」 と号するに至ったことを思えば、処女作の子規の詩は詩讖 (詩の予言) をなしたと言えよう。