(通 釈) 囚われの身となったいまでは、既に過去のももとなった軍服には、赤い血の痕が生々しくついている。 北海道に共和国を樹立せんとした雄図は挫折したが、私の心は少しも挫けてはいない。それどころか、むしろ、意気は壮んである。 囚われて押送される夏の出羽路の、しばし憩う松の木陰に、サッと涼しい風が吹く。見上げれば、頂上の白雪が中天にかかるかと見える、鳥海山が高く聳えている。
○鮮血==真っ赤な血。 ○旧戦袍==いまでは過去のものとなった軍服。 ○壮図==諸藩の没落した士族を収容して、北海道に共和国を建設しようとした計画。 ○躓==つまずくこと。ここでは北海道での共和国建設の計画が挫折したことをいう。 ○松陰==松の木陰。 ○凉動== 「凉」 は 「涼」 の俗字。 「涼動」 とは涼風が吹くの意。 ○羽州==出羽の国、現在の秋田県と山形県に当る。 ○懸天==白雪が、中天に懸かって見えること。 ○鳥海==鳥海山。出羽富士と称される。