しま
菅 茶山
1748〜1827


山陽さんよう しょ とう れつ してりん

きょう おのおの 北人ほくじんほこ るに えたり

いち ただ およがた

よう うみへだ てて全身ぜんしんわら わす
山陽諸島列成隣

佳境各堪誇北人

一事唯難及斯地

芙蓉隔海露全身

(通 釈)
瀬戸内海の島々の並び隣り合う好風景は、北の地方の人々に大いに誇るに足るものである。
しかし、ただ一つ、この地に及ばないものがある。それは、富士山が海の向こう側に裾野までくっきりと、その姿をあらわしている、この景である。

○山陽==山陽地方。
○北人==北の方の人。ここでは関東の人をさす。
○一事==一つの事柄。
○芙蓉==富士山の雅称。芙蓉峰の略。


(解 説)
江戸からの帰途、江の島を通りすぎ、正面の海の彼方に高く富士山が聳えている風景に心を動かして詠った詩である。
(鑑 賞)
起・承句で山陽の瀬戸内の好景を詠ってお国自慢をし、転・結句で、くやしいけれどその好景も及ばない一つの景色は、富士の雄姿なのだと感歎し、文字どおり日本の象徴としての富士の姿に脱帽してみせる。抑揚の強調法、というべき詠い方である。