ときいこ
良 寛
1758 〜 1831


たきぎにの うて翠岑すいしんくだ
翠岑すいしんみちたいら かならず
ときいこちょう しょうもと
しず かにしゅん きんこえ
擔薪下翠岑

翠岑路不平

時憩長松下

静聞春禽聲

(通 釈)
少し欲張って自分の体力としては多いめの薪を背に春の峰を下る。
目には美しいみどりの峰であるが、馬の背のように狭い路は、かけに凸凹している。
薪の重みも、一歩一歩、肩にかけた細い紐を通して、肩に食い込む。
もう少し、もう少しと歩みながらも、丈高く碧空にそびえる松の下にたどり着くと、やはり自然と休んでしまう。
春とはいうものの、こうからだじゅう汗ばんでくると、松の木陰が好ましい。
肌に風を入れると、どこからともなく鶯の声。耳を澄ましていると、あたりの静けさがひときわ深く感ぜられる。

○担==になう。かつぐ。背負う。
○翠岑==春の青々とした峰。
○長松==丈の高い松。
○春禽==春の鳥。越後地方のことでもあり、 「静かに聞く」 とあるから鶯であろう。


(解 説)
五合庵時代のものであろう。良寛ならずとも薪取りは農村の日常生活であったが、詩情豊かな良寛はこれを詩にした。
初めは軽いようでも山路を下るにつれて重みは増し、縄は肩に食い込むばかりに感ずる。荷を下ろして一服し、額の汗を拭って風を入れる肌の気持ちよさは格別である。
「春禽」 はどの鳥でもよいが、越後でも春先、薪取りの時節に鳴くのは多くの場合、鶯である。

(鑑 賞)
作者の心の声がおのずから五言の詩をとって表れ出た詩といってよい。 七言では、こうはいかないであろう。
枯淡素朴に見えるが、句と句の取り合わせと運びが自然を得ており、それが詩情を持ち上げるのに効果を上げている。