夜明け前の早い朝立ちで、馬に揺られながら、うつらうつらと昨夜の夢の続きを見ていたため、朝日の昇るのにも気がつかなかった。
高く低く聳える山々は緑色の屏風を立てたように並び、月は山の端に落ちかかって、一軒の家から漏れる灯が淡い光を残している。
仕事のため忙しく諸方を駆け回るこの身は、宿場宿場の役人をわずらわすばかりで、名利をはなれて心安らかに過ごしているこの崇寿院の老僧に比べてまことに恥ずかしい。
いつかまた慕わしく心惹かれてやって来るにちがいないであろうが、私がここに立ち寄ったことを、その日までどうか覚えていていただきたい。
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