湘(しょう) 婦(ふ) 人(じん) の 詠(えい)
元 好問
金 (1190 〜 1257)


木蘭(もくらん) 芙(ふ) 蓉(よう) 芳(ほう) 洲(しゅう) 満(み) つ
白雲(はくうん) 飛(ひ) 来(らい) して北渚(ほくしょ) に遊(あそ) ぶ
千(せん) 秋(しゅう) 万歳(ばんざい) 帝(てい) 郷(きょう) 遠(とお) く
雲(くも) 来(きた) り雲(くも)去(さ) りて空(むな) しく悠悠(ゆうゆう)
秋(しゅう) 風(ふう) 秋(しゅう)月(げつ) ?江(げんこう) を渡(わた) り
波(は) 上(じょう) の寒煙(かんえん) 軽(けい) 素(そ) を引(ひ) く
九(きゅう) 疑(ぎ) 山(やま) は高(たか) く猿(さる) 夜(よる) に啼(な) き
竹(ちく) 枝(し) 声(こえ) 無(な) く残(ざん) 露(ろ) 堕(お) つ
木蘭芙蓉滿芳洲

白雲飛來北渚遊

千秋萬歳帝郷遠

雲來雲去空悠悠

秋風秋月?江渡

波上寒煙引輕素

九疑山高猿夜啼

竹枝無聲堕残露

木蘭や芙蓉の花が一杯に咲いて、芳しい香りが中州一面に満ち満ちている。
この芳洲はその昔、白雲に乗じて、北渚に来たり遊んだ帝子に、木蘭芙蓉のように美しく貞淑な湘婦人が思慕を馳せたところである。
当時から今に至るまで天帝の都は、はるか遠くへ隔たったままである。そして雲の去来も同じく変わることなく空しく眺められるばかりである。
ゲン水の上を冷ややかな秋風が流れ、冴えわたる秋の月は水の面を白く照らしている。波の上には、冷たい靄が薄絹のように長くかかっている。
九疑山は高く聳えて猿の啼声が悲しく聞こえてくる。
湘妃の涙が葉の模様となったという竹の枝から、消え残りの露が音もなく地に落ちている。