蘆家の若妻は、壁を鬱金で塗った座敷に住んでいるが、その座敷の、玳瑁で飾った梁には、二羽の燕が仲よく巣を作って棲んでいる。
それを見るにつけても、夫の出征したあとを一人守る寂しさが身にしみる。
時候は今年も早や九月、とりわけ寂しい砧の音は木々をふるわせ、落葉をうながしている。夫は十年もの久しい間、辺境の守備に出かけたまま帰らず、かの地、遼陽を空しく憶うばかりである。
その白狼川の北のいる夫からは絶えて手紙さえなく、都の長安の南で、一人侘しく待つ留守の妻には、秋の余はまことに長い。
寂しさに一曲吹いたが、その曲はいくら思うても見る事が出来ない意から 「独不見」 という曲名の怨曲となった。
この曲は誰の為にこのように憂いを含んでいるのか、愁いを慰めるどころか、かえってその思いをつのらせ、寝につくこともでいない。そして眠れないままに機を織るのだが、つまりはそうして明るい月の光に、その糸すじが照らし出されるのである。
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