沈 セン期
初唐 (656 ? 〜 714)


しょう 鬱金うつこんどう
海燕かいえん 双棲そうせい玳瑁たいまいりょう
げつ 寒砧かんちん 木葉もくようもよお
じゅう ねん せい じゅ りょう ようおも
白狼はくろう ほく いん しょ
丹鳳たんぽうじょう なん しゅう なが
ためうれ いをふくどく けん
さら明月めいげつ をしてりゅう こう らさむ
蘆家少婦鬱金堂

海燕雙棲玳瑁梁

九月寒砧催木葉

十年征戍憶遼陽

白狼河北音書斷

丹鳳城南秋夜長

誰爲含愁獨不見

更教明月照流黄

蘆家の若妻は、壁を鬱金で塗った座敷に住んでいるが、その座敷の、玳瑁で飾った梁には、二羽の燕が仲よく巣を作って棲んでいる。
それを見るにつけても、夫の出征したあとを一人守る寂しさが身にしみる。
時候は今年も早や九月、とりわけ寂しい砧の音は木々をふるわせ、落葉をうながしている。夫は十年もの久しい間、辺境の守備に出かけたまま帰らず、かの地、遼陽を空しく憶うばかりである。
その白狼川の北のいる夫からは絶えて手紙さえなく、都の長安の南で、一人侘しく待つ留守の妻には、秋の余はまことに長い。
寂しさに一曲吹いたが、その曲はいくら思うても見る事が出来ない意から 「独不見」 という曲名の怨曲となった。
この曲は誰の為にこのように憂いを含んでいるのか、愁いを慰めるどころか、かえってその思いをつのらせ、寝につくこともでいない。そして眠れないままに機を織るのだが、つまりはそうして明るい月の光に、その糸すじが照らし出されるのである。