八月はちがつ じゅう きん ちゅうひとちょく
             つきたい してげん きゅうおも
白 居易
中唐 (772 〜 846)


銀台ぎんだい 金闕きんけつ ゆうべ ちん ちん
どく 宿しゅく あい おも うて翰林かんりん
さん ちゅう 新月しんげついろ
せん がい じんこころ
しょ きゅう東面とうめん にはえん ひや やかに
浴殿よくでん西頭せいとう にはしょう ろう ふか
なお おそ清光せいこう おな じく ざらんことを
こう りょう しつ にしてしゅう いん
銀臺金闕夕沈沈

獨宿相思在翰林

三五夜中新月色

二千里外故人心

渚宮東面煙波冷

浴殿西頭鐘漏深

猶恐清光不同見

江陵卑濕足秋陰

宮殿の見事なうてな、美しい門のあたりに、時は静かに過ぎて、夜はいよいよ深くなってきた。
今日は宿直で、独り翰林院に居り、親友である君の身を思っている。
今夜は八月十五夜である。色も鮮やかに新しい光を放って上って来た月を見ていると、二千里もの遠陽地に左遷され、ひとり不遇な状態にある君が思い出されてならない。
今、こちらの宮中の清宮の東の方は、うすもやがけぶって、波が冷ややかに打ち寄せ、浴殿の西の辺りには、時を報ずる鐘の音が、更け行く夜にものさびしく聞こえている。
気がかりなのは、今夜この明月を、自分が此処で見るのと同じように、清く美しく眺められないでいることであろう。なぜなら、君の住む江陵の地は、土地が低く湿気も多く、秋曇りの日が多いということだから。