主(しゅ) 人(じん) 相(あい) 識(し) らず 偶(ぐう) 坐(ざ) 林泉(りんせん) の 為(ため) なり 謾(まん) に 酒(さけ) を 沽(こ) うを 愁(うりょ) うる 莫(なか) れ 嚢(のう) 中(ちゅう) 自(おのずか) ら 銭(せん) 有(あ) り
この別荘の主人とは、べつに旧知の間がらではない。それなのにいま、その主人と、こうして向かい合って坐っているのは、このみごとな林や泉の庭園を見たい為なのである。 さて、ご主人、どうかもてなしの酒を買おうなどと無用の心配はしないで戴きたい、酒が飲みたければ、財布の中には、ほら、こうしてちゃんと銭も入っているのですから。