母が亡くなって十七年、母の在りし頃を思いかえすと、まるで夢のように、ぼんやりとした記憶の彼方である。 そして今年もまた母の亡くなった時のように、梅の花が香り、小雨の降る時節がめぐって来た。 いま墓前にこうして額突くわたしは、頭がすっかり白くなってしまったが、かってはこの地下に眠る母の懐に抱かれ、乳を求めた赤子であった。