| 春風が雨を交えて緑の山々を吹きわたっていった。ふり返って宮殿のあたりを眺めやると、ひっそりとわびしく人影もない。若草だけが色もさわやかに、のどかな風情である。
 自分はこの都に久しく滞在して、故郷の家は夜々夢の中でのみ見ているが、いったい、いつになったらその我が家に帰れるのであろうか。
 また、春は今年もまたこの江のほとりに訪れて来たが、ここに再び還ってくる者は果たして幾人あるだろう。
 見渡せば両岸に広がる平原は、長くうねうねと浮雲の外にまで連なり、宮殿は夕日の光に高く、或は低く照らされている。
 それにつけても治国の道を修めて儒者となり世に活躍しようと願っていたこの身が、このような戦乱の世の艱難に出逢って、独り髪の毛が薄くなるまでこの関中の地に不遇の身をおこうとは、誰が思ったことであろうか。
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