しゅん じつ ぐう せい (十 首 の 一)
夏目 漱石
慶応三 (1867) 〜 大正五 (1916)

莫道風塵老

當軒野趣新

竹深鶯亂囀

清晝臥聽春
かれ風塵ふうじん ゆと
のきあた りて しゅ あら たなり
たけ ふか くしてうぐいす みださえず
せい ちゅう してはる

世間の煩わしさに紛れて、すっかり老いてしまったなどと言うなかれ。
我が家は軒先にいて新鮮な自然の趣を味わうことが出きる。
竹やぶの奥のあちらこちらから鶯のさえずる声が聞こえ、すがすがしい真昼時、私は寝そべったままその声に耳を傾け、春の訪れを知るのである。