さつ
皆川 淇園
享保十九 (1734) 〜 文化四 (1807)

防秋復不返

少婦泣黄昏

紫陌秋風柳

翠樓明月園

塵埃長委鏡

晴日不開門

近覺容逾減

夜魂到河源
ぼう しゅう また かえ らず  しょう 黄昏こうこん
はく 秋風しゅうふうやなぎ   翠楼すいろう 明月めいげつその
塵埃じんあい ながかがみまか せて  晴日せいじつ もんひら かず
ちか ごろかたちいよいよ げん ずるをおぼ えて   こん げんいた

寒気が訪れ、活動を始めた夷狄への防備に、夫は北方へ出かけたまま、未だ返って来ない。
あとに残された年若い妻にとって、黄昏時はことのほか寂しくただ泣くばかりである。
都大路の柳は、秋風に葉も落ち、青く塗った高楼の庭園は明るい月の光にその姿を浮かび上がらせている。
化粧した姿を見せる相手も居ないままに、鏡にも向かわず、鏡に積もったほこりはそのままになっており、また天気のよい日ですら、門は閉じたままで外に出ることもない。
家に閉じこもったまま、最近は容色の美しさがいよいよ失われていくのが、自分でもはっきりと判るようになった。
そのような思いに、夜になるとその若妻の魂は、毎晩夫の居るという黄河の源の地方まで、飛んでゆくのである。