よし けいおく
佐久間 象山
文化八 (1811) 〜 元治元 (1864)

之子有靈骨

久厭?躄群

振衣萬里道

心事未語人

雖則未語人

忖度或有因

送行出郭門

孤鶴横秋旻

環海何茫茫

五洲自成隣

周流究形勢

一見超百聞

知者貴投機

歸來須及辰

不立非常功

身後誰能賓
霊骨れいこつ
ひさ しくいと?躄べつぺきむれ
ころもふるばん みち
しん いまひとかた らず
すなわいまひとかたらずといえど
忖度そんたく するにあるいいん らん
こうおく りて郭門かくもんいず ずれば
かく 秋旻しゅうびんよこ たわる
環海かんかい なん茫茫ぼうぼう たる
しゅう おのずかりん
周流しゅうりゅう して形勢けいせいきわ めれば
一見いつけん 百聞ひゃくぶん えん
しゃとう ずるをとうと
らい してすべか らくしんおよ ぶべし
じょうこう てずんば
しん たれひん せん

この吉田松陰という人は人並みすぐれた人物で。久しい間、世の意気地ない人たちを厭うていた。
大丈夫たる者、誰にも万里の彼方に雄飛素養とする心があるが、今松陰はそれを実行しようとしている。
しかしそれは国禁であるからまだ誰にも打ち明けないのである。人には打ち明けないといってもその心中を推しはかれば十分理由があろう。即ち今日の世事を思えば海外雄飛の挙もまた止む得ないのである。
出発を見送って江戸の町外れの門を出ると、折から一羽の鶴が秋の空に飛び、あたかも今日の君の姿のようである。
日本は四方に海をめぐらせ、その海はなんと広々としていることであろうか、然しながらその海によって五大州は自然と隣りあっている。
君はこの際五大州をめぐって世界の形勢を研究して来たまえ、百聞は一見に如かずというではないか。
智ある人は好機に乗ずるを喜ぶ、今ロシアの艦は長崎に来ている。この好機に乗じて海外に渡航し、見聞を広め目的を達したならば適当な時期に帰って来てくれたまえ。
君が如何に進んだ考え方を持つ大人物であっても、これを表に現して人並み以上の大功を立てなかったならば、後世、誰かよく君を貴ぶひとがあろうか。