時は万延元年三月三日、桜の花が散り雪の乱れ飛ぶ中を、突然、雪を踏み花を蹴散らして起こった伏兵の一団が、白昼に大老井伊直弼の首を斬り取ったのである。 ああ、あの権力者が、白昼に、江戸城の桜田門外で殺されたのである。 事態の容易でないことは誰にも推測しえることである。 桜の花は散りつづけ、雪もまた乱れ飛んでいるが、この事件が天下多事多端の前兆となるのではなかろうかと、恐れるのである。