ぐう せい
勝 海舟
文政六 (1823) 〜 明治三十二 (1859)

天地育生無偏私

日月照物自至公

千山花香長春節

萬木葉染高秋風

四時循環豈徒爾

世人難解造化工

爭小利兮失大利

誇微功兮誤全功

嗚呼千載一時實此際
興廢尤思全始終

微力難奈報今日

半生空蒙主恩洪

辱知師友骨半朽

接面交朋意難通

痴迷獨憐大道迂

蹉跌常恐孤愚忠

酸辛知否世味美

眞味卻在無味中
てん せいはぐくむにへん
日月じつげつ もの らすにおのずか こう
千山せんざん はなかおちょうしゅんせつ
万木ばんぼく こう しゅうかぜ
しい じゅん かん あに ならんや
じん かいがたぞう こう なるを
しょう あらそたい うし ない
こうほこ って全功ぜんこうあやま
千載せんざいいち じつさい
興廃こうはい もっとおも しゅうまっと うするを
りょく いかん ともしがた今日こんにちむく ゆるを
半生はんせ むな しくこうむ主恩しゅおん おおい なり
かたじけな くするも ゆうほね なか
めんせつ するの交朋こうほう つうがた
めい ひとあわ れむ大道だいどう なるを
てつ つねおそ ちゅう なるを
酸辛さんしん るやいなせい なるを
しん かえ って なか

天地は万物の生を育むものに決して不公平はなく、日月もまた極めて公平に照らしている。
春には千山の花が一斉に香り、秋には木々の葉が赤に黄色にとすべて染まるのである。
このように四季は巡って来るが、これは造化の神様が上手にお造りになっているので、決して無意味なことではないのである。
人々は自分の利益をのみ争い求めて国家社会の利益を失い、また僅かな功に満足してそれを誇り、大道に尽くすことを忘れている。
ああ千載の一時とは実に今のことを言うのである。今こそ国の興廃をかけて尽くさなければならない最も大切な時である。今まで半生の間、主君より蒙った厚いご恩顧に今報いようとしているが、自分の微力では如何ともし難いのである。こんな時頼りとするかっての師も先輩も多くは世を去り、今交際している友人達にはななかなk自分の意中を理解してもらえず、何処にも相談相手も居ないのである。
あれやこれやと思いを廻らしながら奔走するも、なかなk主君を安堵させるまでには程遠いものがある。
それよりも尚、こうして一人で励んでいても、つまずきや失敗がありはしないかと、それのみを恐れているのである。
けれども世の人々は、このような辛酸の味こそ本当の世の中の味わいだというここを知っているだろうか。
また、誠の心というものは、実は、無味の中にこそ在るものだと言う事も。