たいらあつ もり
網谷 一才
明治二十五 (1892) 〜 昭和四十 (1965)

笛聲嫋嫋斷人腸

夜冷陣中憶故郷

誰識傷魂空入夢

恩讐兩解涙痕長
笛声てきせい じょう じょう ひとはらわた
ひやや かにしてじん ちゅう きょうおも
たれ らんしょう こん むな しくゆめ るを
恩讐おんしゅう ふた つながら けて涙痕るいこん なが

どこからともなく聞こえてくる笛の音が低く尾を引くように流れてゆく。
しんしんと冷えこむ夜の陣中である。
人を悲しませずにはおかないその笛の音に、当時の兵士たちは、望郷の思いをますますつのらせたにちがいない。
この笛の主の最期を痛む思いも空しく夢路に入ったと誰が知るであろう。
今はすでに恩讐共に過去のものとなったが、この思いは益々深くなるばかりである。