千年もの長い年月を経た今、かって南朝・北朝と敵味方に分かれて戦ったあとも消えて、大空を吹く風と、たなびく雲のみが、いつまでも忠臣楠公の英魂を弔っているのである。 わたしは旅の一夜を湊川古戦場に近いこの生田の地に宿り、感慨はことに深かった。 夜、松風の音を耳にして外を見やれば、月影は暗く楠公の墓畔のこの村を寂しく照らし出していた。