江戸客裏雑詩

江（え）戸（ど）客（かく）裏（り）雑（ざつ）詩（し）
頼杏坪
宝暦六(1756)～天保五(1834)

八百八街宵月明

秋風處處賣蟲聲

貴人不解籠閒語

総是西郊風露情

八百（はっぴゃく）八（や）街宵月（がいよいづき）明（あきら）なり
秋風処処（しゅうふうしょしょ）に虫声（ちゅうせい）を売（う）る
貴（き）人（じん）は解（かい）せず籠間（ろうかん）の語（ご）
総（すべ）て是（こ）れ西郊風（せいこうふう）露（ろ）の情（じょう）

江戸八百八町は明るい宵の光に照らされている。
涼しい秋風の中を街の処どころに虫屋の売る虫の声がかまびすしい。
政治にたずさわる身分の高い人々はこの籠の中で鳴きたてる虫の声が西の郊外の秋の自然の情を語るものであるということを知らないのではあるまいか。
(虫の声をかりて上の人々が下情に通じないのを風刺したものである。)